さくさくエディタ

x64 Data Structure

自己紹介

名前:津田伸秀

サイト: http://vivi.dyndns.org/    twitter:vivisuke

facebook:https://www.facebook.com/nobuhide.tsuda

ぼちぼちソフト作家、年齢不詳のおじさん、自宅研究員(主席)

趣味:テニス、オセロ、思考ゲーム・パズル類

Cocos2d-x/Qt/C++ 使い, 一応webアプリ(PHP, JS, jQ, SQL)も出来るよ

Windows用テキストエディタ ViVi を延々開発中

世界最速「さくさくエディタ」 も開発中だよ

パズルアプリ(Androidtmlib)も公開中だよ

 

迷走中、お仕事募集中でござるぞ

今日の内容

  • 「さくさくエディタ」 32bit 版バッファデータ構造概説
  • 64bit 版での問題点
  • 解決策案たち

32bit 版さくさくエディタ

最速賢美 さくさくエディタ

  • 編集エンジンが世界最速
  • ユーザを賢く
  • vi(美) コマンドサポート
  • 窓の杜大賞2013ノミネート

全置換速度比較

その他の機能・特徴

  • 文字削除時アニメーション
  • 右下背景画像
  • 全体マップ
  • Zen-Coding
  • カラーテーマ
  • 各種言語サポート
  • 遅延無し折り返し処理
  • マークダウン
  • 自動・手動補完
  • スタートページ
  • ネタ エディタではありません

32bit 版 編集バッファ

データ構造概説

テキストエディタ

  • エディタとは、簡単に言うと、プレーンなテキスト情報を保持し、ユーザの指示により内容を表示・編集するプログラム

バッファ

  • バッファ:テキストそのものを管理する部分
    • 必要十分な機能・品質・高速性・高メモリ効率・使いやすさ・拡張性等が要求される
  • 最重要メソッド:文字参照・挿入・削除
    • charAt(index_t pos)
    • ​insert(index_t pos, string str)
    • erase(index_t first, index_t last)
      • ​※ 文字位置は整数で指定(他の方式もある)
  • ランダムアクセス、編集処理の高速性が求められる

テキストデータ

  • 基本的には1次元コンテナに文字を格納するとよい
  • C++ 汎用コンテナクラス:
    • std::vector<T> // 動的配列
    • std::list<T>        // 双方向リンクリスト

vector と list

  • std::vector, std::list には一長一短がある

許されるのは O(N*Log N)まで

解決策

  • 行単位管理 (vi)
  • ギャップバッファ (Emacs)

局所参照性

  • テキストエディタのテキスト参照箇所には局所性がある
  • 編集箇所についても同様の局所性がある
  • 局所性を前提とすることで、処理速度向上を実現できる

ギャップバッファ

  • 局所参照向けに std::vector を改良
  • データが無い部分を中央に配置(ギャップ)

ギャップバッファ

template <typename T> class gap_buffer {
    T       *m_data;      //  データ領域
    pos_t   m_gapIndex;   //  ギャップ位置
    ssize_t m_gapSize;    //  ギャップサイズ
    ssize_t m_size;       //  データサイズ、capacity = size + gapSize
};

1文字参照

T GapBuffer::charAt(pos_t pos) const
{
    if( pos >= m_gapIndex )  //  pos がギャップ以降
        pos += m_gapSize;    //  ギャップサイズ分補正
    return m_data[pos];
}

ギャップ移動

void GapBuffer::moveGapTo(pos_t pos) 
{
    if( pos < m_gapIndex ) {
        [pos, m_gapIndex) を [pos+m_gapSize, m_gapIndex+m_gapSize] に移動
        m_gapIndex = pos;
    } else if( pos > m_gapIndex ) {
        [m_gapIndex+m_gapSize, pos+m_gapSize) を [m_gapIndex, pos) に移動
        m_gapIndex = pos;
    }
}

ギャップ移動

削除

void GapBuffer:erase(pos_t pos) {
    moveGapTo(pos);  // ギャップを pos に移動
    ++m_gapSize;     //  ギャップサイズを増やすだけで文字が消える
}

挿入

void GapBuffer::insert(pos_t pos, T ch) {
    if( ギャップが無い )
        データエリアを(1.5~2倍に)拡張;
    moveGapTo(pos);  //  ギャップを pos に移動
    m_data[m_gapIndex++] = ch;    //  ギャップ先頭に文字挿入
    --m_gapSize;
}

パフォーマンス計測

  • 総合ベンチマークとしては何を計測すべきか?
  • 参考:「サクラエディタはベンチマークの夢を見るか?」
  • シーケンシャルな参照、削除、挿入処理時間が最も重要
  • →全置換処理を計測するのがよい
  • ("XYZはいってる。"*7+"\n")*(100~10万行) に対して、「XYZ」→「abcde」全置換
  • C++ でゼロから実装した gap_buffer<T> を計測
  • 比較対象:QVector<wchar_t>, QLinkedList<QString>

計測結果

64bit化に於ける問題点

64bit化

  • VC++ x64 モードでビルドすると、64bit モードとなる
    • 4GB超のメモリが使用可能になる
      • 32bitモードでは合計4GBまで
      • 実質的に使用できるのは2GB程度
    • ポインタが 64bit となる
    • VC++ では long は32bit, long long が64bit

64bit 化に伴う問題点

  • 32bit版ではオープン可能ファイル上限は300MB程度
  • 64bit版では10GB以上でもオープン可能
  • ギャップバッファの挿入・処理時間:
    • 局所的であれば O(1)
    • 非局所的であれば O(N)
  • 一般的に O(N) は高速なアルゴリズムであるが、N が大きくなリすぎると、処理時間が問題となる
  • オープン・全置換などで時間を要するのは説得力があるが、1文字の挿入・削除で最悪1秒以上を要するのはいかがなものか?

解決策案たち

解決策案たち

  • gap_deque
  • 階層的 gap_buffer
  • piece_table

ギャップ デック

gep_deque

gap_deque

  • gap_buffer + 末尾ギャップ
  • ギャップ個数を増やしても、複雑さの増加に見合うパフォーマンスの向上が見られないと言われている
  • 2つめのギャップを末尾に固定することで、パフォーマンスの低下を回避
  • 先頭付近、末尾での交互編集:O(1)

gap_deque

class gap_deque {
    .....
private:
    pointer    m_data;		//	バッファ先頭アドレス
    mutable size_type	m_gapIndex;	//	ギャップ位置
    mutable size_type	m_gapSize;	//	ギャップサイズ
    size_type	m_tailGapSize;		//	末尾ギャップサイズ
    size_type	m_size;		//	データトータルサイズ
}

Text

※ gap_buffer は O(N^2)

※ gap2_buffer はバランス処理を行わない版

全置換処理速度比較

結果

  • 局所的編集+末尾編集であれば高速
  • 先頭編集後、末尾付近を編集すると、
  • データ移動に O(N) の処理時間を要する
  • 意味があるのか微妙

階層的ギャップバッファ

階層的ギャップバッファ

  • 複数のギャップバッファをギャップバッファで管理
  • ひとつのバッファの容量を 1MB とかに制限する
  • 編集時のデータ転送量の増大が避けられる
template<typename T>
class hgap_buffer {
....
    gap_buffer< gap_buffer<T>* > m_buffers;
};

階層的ギャップバッファ

  • 各バッファ・サイズは動的(ギザギザ配列)
  • インデックス→文字位置計算:O(Log N)
  • 単層のギャップバッファに比べると、全置換が数倍遅い

ピーステーブル

ピーステーブル

  • 階層的データ構造のひとつ
  • 書き込みのみを行うデータエリアと
  • データへのポインタ、文字数から成る
    • これを「ピース」と呼ぶ

ピーステーブル

ピーステーブル

  • ランダム・アクセス
    • 処理時間:ピース管理方法に依存
    • 通常 O(Log N) の処理時間が必要
  • 文字挿入
    • ピースを作成し、ピーステーブルに追加
    • 追加処理そのものは O(1)
  • 文字削除
    • ピースを前後に分割
    • 削除処理そのものは O(1)

ピーステーブル

  • データの移動をいっさい行わないので、巨大データ処理に有利
  • インデックス→文字位置計算:O(Log N)
  • 大量のピースが生成され、メモリ効率が低下する恐れがある
    • 1ピース:ポインタ+サイズ=16バイト
    • vector 類は最悪でも2倍~1.5倍
  • undo/redo のための情報が残っている
    • 情報を積極的に利用するためには、編集エンジンの修正箇所が多い

まとめ

  • 局所的編集処理が高速な「ギャップバッファ」について概説
  • ギャップバッファは巨大データとの相性がよろしくない
  • 64bit版バッファを高速化しようと、いろいろやってみたが、全置換処理時間がギャップバッファよりも低速になってしまい、あまりうまく行きませんでした orz
  • いいデータ構造・アルゴリズムがあったらご教授してください

ご清聴ありあとうございました~

Made with Slides.com