#8

不自然さを説明する

メディア文化学特殊講義/美学美術史学特殊講義

月曜4限/第8回

松永伸司

2022.06.13

今日のメニュー

1. 質問への回答など

2. 前回の残り

3. 不自然さを説明する(後編)

4. 画像のリアリズム(前編)

1. 質問への回答など

  • リアクションペーパーについての注意

  • コメントの紹介と回答

リアクションペーパーについての注意点

一部の人向け

  • 学生番号の記入は半角かつハイフンなしを徹底してください。

  • 学生番号の書式は、単純に成績をつける際の作業の進めやすさに直結するという意味でこちらにとってかなり重要なので、この点で指示に従っていない場合は減点する可能性があります。

Q.

マリオの例が挙げられていたが、ゲームメカニクスと虚構世界の区別でいうとおそらくプレイヤーのプレイに関係ありかつ虚構世界の産物であるマリオやキノコはゲームメカニクスと虚構世界の両方に該当し、雲や背景の山が虚構世界に該当すると思うのだが、ではプレイヤーのプレイでは切り替えられないがプレイヤーの選択次第で(例えば穴に落ちたりした時)切り替わるBGMはどんな存在なのだろうかと疑問に思った。あれは虚構世界に流れているだけの音楽なのだろうか。

マリオの音楽は、G内容として特定のタイプのステージを示していると考えてもいいですが、とくに内容を持っていないと考えてもいいと思います。ゲーム音楽の多くは雰囲気(ムード)を作るためだけに使われますが、その意味でのムードはこの授業では記号の働きとしては扱いません(記号と内容の関係ではなく、美的性質や表出的性質という概念で理解すべきものです)。もちろん、音楽がムードを作ると同時にプレイヤーに(G内容上の)危険を示すといった働きを持つ場合もよくあり、その場合は記号としての機能を持ちます。

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A.

Q.

記号と内容の関係について、これは裏切りをどのように処理するのかという点が気になりました。たとえば、ドラゴンクエストシリーズにはしばしば「宝箱のグラフィックに触れたら実はそれが『ミミック』というモンスターの擬態した姿だった」というギミックが存在します。このような事態が起こった場合、「宝箱のグラフィック」という記号が表す内容に「アイテムが入っている」だけでなく「『ミミック』が擬態した姿である」というものが書き加えられるという解釈でよいのでしょうか。

また、書き加えられるとして、この書き換えが起こるタイミングには、制作者がそのギミックを設定した段階(この場合、記号と内容の関係はほぼ理論的定義のように決定されるといえそうです)、あるプレイヤーがそのギミックを始めて体験した段階、そのギミックが存在するという情報が一般に広まった段階などの様々な解釈があるように思います。記号と内容の関係はこのように視点や前提によって変わりうるものと捉えてよいのでしょうか。

前半はその理解でかまいません。また後半についてもおおむねその理解でかまいません。基本的には、記号と内容の関係(=記号作用、意味作用)はプレイヤー視点で考えています。

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A.

2. 前回の残り

  • シミュレーションについての補足

  • G内容の特定方法

シミュレーションについての補足①

シミュレーションの特徴づけ

  • シミュレーション一般の説明:

    • ​記号と内容の関係のあり方のひとつ。

    • (ふつう入出力を備えた)動的なモデルによって、それと構造的に似ているものとして何かがあらわされる。わかりやすく言うと、そのモデルが何かに見立てられる。この見立てがシミュレーションの本質。

  • ビデオゲームのシミュレーションの説明:

    • ゲームメカニクス(実体はコンピュータによって実現されている状態機械)がシミュレーションのためのモデルとしても使われることが大半である。

    • 加えて、ふつうは、現実のすでにある現象や未来の状況をシミュレートするというより、まさにそのシミュレーションを通じて新しい架空の世界を作り出す。つまり、ゲームメカニクスが虚構世界の構造として見立てられる

    • そういうわけで、一般にビデオゲームにおけるシミュレーションでは、G内容がF内容をあらわす記号として機能する。

Q.

ビデオゲームの画面にはフィクション内容を表す記号とゲームメカニクス内容を表す記号の両方が含まれていて、これら二つが持つ関係性のうち、G内容からF内容を想像する例としてシミュレーションが挙げられていたが、このシミュレーションについていまいち理解ができなかった。(主にSimCityの例)

原子力発電所のグラッフィックからそれがどのような挙動をするのかを推察するのではなく、シムシティにおける原発が持つ挙動を何らかの手段で知った上で、ビデオゲーム内の世界にはそういった施設が存在するとしてフィクション世界を想像する。こういった点においてG内容からF内容を想像すると言える、ということだろうか。

その理解で問題ないです。

A.

Q.

記号の理論に関して、類比的推論は理解できたのだが、ゲームメカニクスからフィクションを推定するケースについて、理解できないところがありました。RPGでパラーメータからキャラクターの一面をうかがえることは分かったのだが、シムシティにおける例があまりピンときませんでした。原子力発電所の数字なデータなどから、原子力発電所がどのような性質・役割があるかがわかるという理解であっていますでしょうか。〔…〕

〔…〕「原子力発電所がどのような性質・役割があるかがわかる」というより、「ゲームメカニクス上の性格から、虚構世界上しかじかの性質・役割のものがあるという想像をする」という感じです。ここでの「ゲームメカニクス」が完全に抽象的なものとして考えられているという前提があると理解しやすいかもしれません。授業で少し補足します。

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A.

Q.

疑問だが、授業で紹介したようなシミュレーションゲームやRPG以外でのシミュレーションの例にはどのようなものがあるのか。自分のゲーム経験があまり多くないからかもしれないが、自分の中で、類比的推論は広くどのようなゲームでも通用するように思ったが、シミュレーションが発生する例があまり思い浮かばず、類比的推論に比べて発生が限定的であるように感じてしまったため、気になっている。〔…〕

具体例は無数にあるというか、だいたいのビデオゲーム作品には多かれ少なかれ類比的推論の面もシミュレーションの面もあります。シミュレーションがわかりづらいのは、ゲームメカニクス自体に意識が向いていないからか、あるいはゲームメカニクス自体とシミュレーションの内容(G内容を通したF内容)を同一視しているからかなと思います(開発者が意図的にそうなるように作っていることが多いので、そう感じるのはある意味で当然です)。

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A.

シミュレーションについての補足②

続き

 

シミュレーションについての補足③

続き

  • ​ビデオゲームにおいてシミュレーションが生じている場合、画面(UI)上のグラフィックやテキストは、

    • (a) G内容をあらわす記号、および、

    • (b) G内容を何と見立てるかを指定するラベル

  • としての役割を持っている。

  • しかし、それだけでなく、グラフィックやテキストは、

    • (c) ふつうそれ単独ですでにF内容を持っている。

  • 結果的として、多くのケースでは、シミュレーションを介したF内容と、シミュレーションを介していないF内容の両方が同居することになる。

Q.

ゲームメカニクスがシミュレーションを通じて架空世界を作り出すことは分かったのですが、ゲームメカニクスがシミュレーションのためのモデルとして使われない例があるのか気になりました。

最終的には解釈次第でどうとでも言えますが、常識的にはTetrisなどはそういう例だと思います。個人的には、『ぷよぷよ』のゲームメカニクスもとくに何もシミュレートしていないと考えてますね(ただ、これはよく異論を言われます。それが描く虚構世界(『魔導物語』の世界)での魔法によるバトルをシミュレートしているはずだ、みたいな反論です)。さらに言うと、たとえばマリオ(プレイヤーキャラクター)が3機というゲームメカニクスも、常識的にはシミュレーションとして機能していないと思います。

そういうシミュレーションになっていない面は、相対的に目立たない(そして目立つ場合はネガティブに評価されやすい)という話であればその通りかもしれません。​

A.

Q.

G内容がF内容をあらわす、シュミレーションの話がうまく理解できません。〔…〕ビデオゲームにおけるシュミレーションではG内容がF内容をあらわし、「そのシミュレーションを通じて新しい架空の世界を作り出す」とのことですが、それってつまりG内容がフィクションということになりませんか。それとも『スーパーマリオブラザーズ』でいうマリオのように、虚構世界とゲームメカニクスの両方を表すものなのでしょうか。混乱しています。

シミュレーションでは、G内容がフィクション(F内容を持つ記号)になるという理解で問題ないです。記号がG内容とF内容の両方をそれぞれ直接にあらわすケースもあれば(マリオの例はそれです)、G内容を経由してから間接的にF内容をあらわすケースもあるということです。マリオの例における②のケース(1つの記号がF内容とG内容を同時に持つケース)を「重ね合わせ」と呼んでいますが、重ね合わせとシミュレーションは相互に排他的ではありません。

ただし、重ね合わせとシミュレーションがつねに共起するわけでもありません。重ね合わせがなく、かつシミュレーションになっている記号の例はかなりレアですが〔…〕、重ね合わせがあり、かつシミュレーションになっていない記号の例は意識的に探せばけっこうあります。

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A.

シミュレーションについての補足④

シミュレーションがわかりづらい例

  • ​​もちろん、グラフィックやテキストによるF内容と、シミュレーションによるF内容がおおむね一致していることもよくある(というか、モダンなビデオゲーム作品の多くの部分は、普通そうなるように作ってある)。その場合、シミュレーションが成立していることがわかりづらい(ゲームメカニクスそのものが意識されづらいので)。

  • ただ、そういうケースでも、細かいところを見ればいくらでもずれが見つかる。

    • たとえば、​グラフィックによって描かれているオブジェクトの形状(グラフィックによるF内容)と、ゲームメカニクス上の衝突判定(コリジョン)の範囲(シミュレーションによるF内容)が異なる場合。

    • グラフィックのF内容上は色が異なるオブジェクトだが、その色の違いに対応するゲームメカニクス上の区別がない(つまり色がシミュレートされていない)場合。

    • 車を強盗する際に、グラフィックのF内容上ではキャラクターはいろいろなことをやっているが、ゲームメカニクス上の行為としてはボタンをひとつ押すだけという場合。

Q.

ゲームの画面があらわす二つの機能があり、片方ずつしか表さない場合と両方表す場合があるということだが、スライドの中で①②③の三つで示されている区別は慣習とゲームの実践という二つの段階で行われ、たとえば「実は雲に触れたらマリオが死ぬ」というようなギミックがあった場合に最初の慣習が裏切られて画面上の雲が①→②にプレイヤーの意識の上で移行するというふうに考えたが、この理解で問題ないだろうか。

記号と内容の結びつきが生じる実際のプロセスがそういう感じになることはあるでしょうね(それ以外にもいろいろなあり方があると思いますが)。『ビデオゲームの美学』の中で少しだけそのあたりの話をしているので、スクショを貼っておきます(p. 216)。

スクショ 👉 https://scrapbox.io/files/629b7aaacb46560023a42757.png

A.

G内容の特定方法

G内容はどうやって特定されるのか

  • いろいろなパターンがある(『ビデオゲームの美学』p. 216):

    • ​ルールブックやゲームプレイ内のテキストなどでG内容が直接に明記されているケース(「このアイテムはこれこれの効果がある」など)。

    • ゲームジャンルの慣習についての知識によって、記号とG内容の結びつきがあらかじめ把握されているケース(RPGにおいて宝箱の記号があれば、それはG内容として〈中にアイテムが入っている〉をあらわす、など)。

    • 実際のゲームプレイ上のインタラクション(試行錯誤)を通じて、ゲームメカニクス上できること/できないことが把握されていくケース(いろいろ試した結果〈まるいドアには入れる〉が〈四角いドアには入れない〉ことがわかった、など)。

    • F内容にもとづいた類比的推論によってG内容が推測されるケース。

Q.

G内容が特定される方法について、「慣習についての知識によって、記号とG内容の結びつきがあらかじめ把握されているケース」と「F内容にもとづいた類比的推論によってG内容が推測されるケース」の境目がはっきり理解できませんでした。宝箱の場合と階段やドアの場合がどちらも自然な類推かのように感じてしまうのは、無意識に現実での慣習とゲームジャンルでの慣習を混同させてしまった理解なのでしょうか。それとも両者に明確な境目はなく、程度の問題と捉えていいのでしょうか。

おっしゃるように程度の問題ですね。死んだ隠喩(dead metaphor)などがわかりやすいケースですが、本来記号の連鎖を通して間接的に特定の内容をあらわしていた記号が、慣習によってその中間的な内容がショートカットされるようになり、直接的に内容をあらわすようになる(もはや間接的な表現ではなくなる)ということは一般によくあります。

こういうのは、ビデオゲームをほとんどプレイしたことのない人にプレイさせてみると、ビデオゲーム文化内の慣習による結びつきなのかビデオゲーム文化外の慣習によるものなのかがある程度判別できます。

A.

Q.

『しょぼんのアクション』や『Messアドベンチャー』といったいわゆる死にゲーのような、プレイヤーがイライラすること自体を楽しむタイプのビデオゲームは、プレイヤーが行う類比的推論やシミュレーション(やゲームプレイの慣習における知識)を逆手に取ることで面白味を生じさせているのではないかと思った。例えば自らを利するアイテムだと思って触れると即死アイテムだった場合は、類比的推論をわざと誤らせるように設計されていると言うことができると思う。

『しょぼんのアクション』などは、類比的推論をミスリードしているケースというよりジャンルの慣習にもとづく予期を裏切っているケースに思えますが、そこまで明確に区別できるものではないかもしれません。類比的推論ができるように見せて実のところそれがまったく成り立たない作品としては、McPixelなどがわかりやすいかなと思います。

A.

3. 不自然さを説明する(後編)

  • 透明な壁を説明する2つの観点

透明な壁を説明する①

透明な壁を説明する②

2つの説明の観点

  • 透明な壁は、以下の2つの観点ごとに別々の説明ができる。

    • F内容のあり方に注目する説明。

    • G内容のあり方に注目する説明。

  • それぞれ「ナラトロジスト向けの説明」と「ルドロジスト向けの説明」と言ってもいいかもしれない)。

透明な壁を説明する③

F内容ベースの説明

  • 透明な壁の現象では、おそらく次のようなことが起きている。

    • まず、グラフィックによって〈そこには壁がない〉というF内容が直接的にあらわされる。

    • 一方で、G内容によって(つまりシミュレーションを通して)〈そこには壁がある〉というF内容が間接的にあらわされる。

      • ​この場合のG内容は、ふつうゲームプレイ上の実際のインタラクション(試行錯誤)によって確かめられる。

    • 結果として、2つの経路から得られるF内容が互いに相反しており、(そのF内容をそのまま受け入れるかぎりで)虚構世界のあり方に整合性がないという状態になる。

透明な壁を説明する④

F内容ベースの説明:続き

  • ここで無理やり整合性を持たせようとすると、「文字通り目に見えない壁がその世界の中にあるのだ」などと考えざるを得なくなる。

  • 目に見えない壁が存在することがその虚構世界の設定上ごく自然なことであればその解釈で問題ないかもしれないが、それはたいてい不自然なことである。

  • それゆえ、ビデオゲームのフィクションの側面を大事にするプレイヤーは、不整合な世界を受け入れるか不自然な(こじつけにしか思えない)解釈を受け入れるかのどちらかを迫られることになる。

透明な壁を説明する⑤

G内容ベースの説明

  • 透明な壁の現象では、おそらく次のようなことが起きている。

    • ​まず、F内容を通じた類比的推論によって、〈そこは通れる〉というG内容が推測される。

    • 一方で、ゲームプレイ上の実際のインタラクション(試行錯誤)によって、〈そこは通れない〉というG内容が確かめられる。

  • ​結果として、2つの経路から互いに相反するG内容が得られる。

  • とはいえ、G内容として正しいのはインタラクションを通じた情報のほうなので(というのも実際にそこは通れないことが確かめられたわけなので)、類比的推論によって推測されたG内容は棄却される。

透明な壁を説明する⑥

G内容ベースの説明:続き

  • G内容が記号によって明示されていない(見えない)という不便さはあるものの、いったん正しいG内容(そこは通れない)が把握されてしまえば、ゲームプレイ上の支障は少なくなる。

  • それゆえ、ビデオゲームのゲームメカニクスの側面だけを気にするプレイヤーにとっては、F内容ベースの説明にあったようなジレンマは生じない(単純にF内容を無視すれば済む話なので)。

    • もちろん、初見で類比的推論ができないとか単純にプレイする上で不便であるという点で「作品の出来がよくない」という評価は、G重視のプレイヤーでもするかもしれない。

透明な壁を説明する⑦

透明な壁以外のへんてこ現象

  • マリオの命、開かないドアなどは透明な壁と同じ説明ができそう。

  • その他の不自然なケースについてはあまり考えていないが、ある程度は似た話ができそうなケースが多いように思われる。

  • あるいは、たんに記号の内容(FであれGであれ)がよくわからないとか、類比的推論がうまくできないなどといったシンプルなケースもあるかもしれない。

  • あるいは、次に考えるリアリズム(写実性)の基準に違反しているという観点から説明したほうがよい不自然さもあるかもしれない。

4. 画像のリアリズム(前編)

  • リアリズム一般について

  • 描写の哲学の議論の紹介

画像のリアリズム①

リアリズム一般についての前提

  • リアリズム(写実性):

    • フィクション(あるいはより広く表象芸術作品一般)が持つ本当らしさ、もっともらしさ、再現の忠実さなどのこと。

  • 古代からある伝統的な芸術観(おおむね18世紀後半までは支配的な考え方)では、芸術は自然(あるいは何らかの意味での現実)を模倣するべきものだとされてきた(この模倣は「ミメーシス」とも呼ばれる)。結果的に、リアリズムがひとつの芸術的な評価基準として受け入れられてきた面がある。

  • この手の価値観は、多くの芸術分野ではすでに主流ではなくなっているが(少なくとも素朴な価値観と見なされる)、ビデオゲーム文化ではいまだに根強い。

  • ​この授業では、リアリズムをめぐる規範的な問題(リアリスティックであることはよいことなのかどうか)は取り上げない。

  • 「リアリティ」というのは和製英語であり、無用の混乱を引き起こすのでこの授業では使わない。

画像のリアリズム②

続き

  • 重要な注意点

    • ​文学や絵画において19世紀に生じる芸術運動あるいは様式としての「写実主義(realism)」は、前ページの意味でのリアリズムとは(無関係ではないものの)基本的に別物と考えたほうがよい。

    • この芸術運動あるいは様式としての写実主義は、理想化を排して身近な現実を描くべしというところにポイントがある。つまり、どちらかというと題材選択のレベルの話である。

    • いま問題にしている意味でのリアリズムは、様式としてはむしろ「自然主義(naturalism)」と呼ばれることが多いかもしれない。

  • 毎度の注意ですが、同じ言葉や似た言葉が文脈によって異なる意味を持って使われることは(とくに芸術関係の話題だと)非常に頻繁にあるので、単純な多義性によって足をすくわれないように意識することをおすすめします。

画像のリアリズム③

画像のリアリズム④

ビデオゲームのリアリズム?

  • いくつかのレベルで異なる種類のリアリズムがあると考えているが、ひとまず一番わかりやすいグラフィックのリアリズムを手掛かりにする。

  • グラフィックのリアリズムは、ようするに画像(映像含む)のリアリズムなので、画像についての議論がそのまま応用できる(※)。

 

※ 3DCGやピクセルアート特有の様式(絵の感じ)は当然あるが、そもそも描写の哲学(次ページ参照)が問題にしているのは、さまざまな様式を包摂する画像一般の性格であり、そこには3DCGやピクセルアートも含まれる。独特の様式だからと言って、ビデオゲームのグラフィックに関してのみ何か特殊なリアリズムの基準があると考えるべき理由はない。

​『ファイナルファンタジーIII』(1990)

​『ファイナルファンタジーVI』(1994)

​『ファイナルファンタジーX-2』(2003)

​『ファイナルファンタジーXV』(2016)

画像のリアリズム⑤

描写の哲学

  • 「ある画像(picture)がリアリスティックであるとはどういうことなのか」という問題については、描写の哲学の中で一定の議論の蓄積がある。

    • ​描写の哲学については去年の授業のテーマだったので説明を省略する。

    • 去年の授業資料まとめサイトへのリンクをPandAのトップページに掲載しておいたので、関心がある方はそちらから飛んでください(URLは表に出さないでください)。

  • ​ここでは、ジョン・カルヴィッキによる画像のリアリズムの基準についての議論をベースに説明する。

    • ​文献:John Kulvicki, Images (New York: Routledge, 2014), chap. 6.

画像のリアリズム⑥

カルヴィッキの考え

  • 画像のリアリズムの基準をどう考えるかについては、いまだに諸説あってとくに定説がないのが現状だが、カルヴィッキにしたがえばひとまず以下の3つの観点がある。

    • 正確さ(accuracy)

    • 情報量(informativeness)

    • 慣れ親しみ(familiarity)

  • ​それぞれの説明は次回に回します。

おまけ

来週の予定

  • 画像のリアリズムの続き。

  • ビデオゲームのリアリズムには複数の種類がありそう。

  • 美術史の様式論について。

スライド最後

メディア文化学/美学美術史学特殊講義 8

By Shinji Matsunaga

メディア文化学/美学美術史学特殊講義 8

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