#11
ビデオゲームの物語
メディア文化学特殊講義／美学美術史学特殊講義
月曜4限／第11回
松永伸司
2022.07.11
今日のメニュー
1. 質問への回答など
2. 物語論の初歩
3. ビデオゲームの物語の特殊性
1. 質問への回答など
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コメントの紹介と回答
2. 物語論の初歩
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物語の定義論
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物語言説と物語内容
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物語的結合
物語の定義論／物語言説と物語内容
物語の定義論および物語言説と物語内容については、以下の授業資料をベースにして話します。
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2020年度 東京都立大学 表象文化論特殊講義 授業資料
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👉 ①ビデオゲームの物語論 第5回
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スライドだけ見ている人向けの注意点
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日本語の日常語における「物語」は、資料内の「物語内容（story）」の意味で使われることがよくありますが、ここで問題にしている「物語」はどちらかというと「物語表現」や「物語作品」に近い意味です（そもそも物語論以外の文脈では、この2つの意味を区別して言い分けることが少ないです）。
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上記資料では、物語の定義論における諸説を紹介していますが、とくにこれが決定的な定義であるみたいな話はしません。「これこれが物語の必要十分条件である」といった理解をしないでください。
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物語的結合①
「物語的な結びつき」の内実
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上記資料①p. 4の5点目の話題についての補足。
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ある物語の物語内容（物語言説によって表象される内容）に含まれる一連の出来事は、互いに結びついてまとまりを構成し、それによって全体として理解可能である必要があるとしばしば言われる。
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言い換えれば、互いに関係のない複数の出来事を並べて記述しただけでは物語にならないということ。
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この結びつきは「物語的結合（narrative connection）」などと呼ばれることがある。
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Noël Carroll, "On the Narrarive Connection," in Beyond Aesthetics (Cambridge University Press, 2010).
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物語的結合②
続き
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E. M. フォースター（『小説の諸相』）の非常に有名な考え：
- 以下の出来事記述があるとする。
- A. 王が死に、王妃が死んだ。
- B. 王が死に、悲しみのあまり王妃が死んだ。
- フォースターによれば、Aはたんに2つの出来事を時系列順に並べただけだが、Bは2つの出来事のあいだにある種の因果関係があることを記述しており、それによって全体をまとめ上げている。
- Aが物語的結合がないケース、Bが物語的結合があるケース。
- 以下の出来事記述があるとする。
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注意点：
- よく知られているように、フォースターはAを「ストーリー」、Bを「プロット」と呼んでいるが、「ストーリー」や「プロット」は物語論で別の意味で使われることも多いので、文脈ごとの用語法の違いに十分に注意すること。
- 余談だが、AとBの違いは、年代記と歴史記述の違いとしてよく言われる。
物語的結合③
続き
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フォースターのように、物語的結合をある種の因果関係として考える立場は主流だが、デイヴィッド・ヴェルマンは必ずしも因果関係だけが物語的結合を構成するわけではないと主張している。
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J. David Velleman, "Narrative Explanation," The Philosophical Review 112, no. 1 (2003).
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👉 日本語でのまとめブログ
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たとえば、「殺された人の像が偶然倒れてきて、その加害者が死んだ」のような因果関係も何もないようなケースであっても（※）、物語的結合は成り立ちうる。つまりお話としてまとまりを持ちうる。
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むしろ「感情のリズム」のようなものが物語的結合を作り上げることがある。
※ このケースは「因果応報」ではあるだろうが、それは仏教的な意味での「因果」であって、causalityではない。
物語的結合④
物語的結合を批判的に考える
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フィクション作品はさておき、現実の表象（たとえば報道や歴史記述や人生語り）を物語として理解する場合（われわれはたいていそういう理解をしている）は、ちょっと気をつけたほうがよい。
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お話としてのまとまり（理解や納得）をもたらしてくれる物語をわれわれは信じがちだが、物語的結合を作り出している因果関係はたんに語り手がそのように語っている（あるいは聞き手がそのように解釈している）だけであって、実際の出来事間にある因果関係とは違っているかもしれない。
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なんならその結合は、因果によって結びつけられているのですらなく、「感情のリズム」のような何かによって結びつけられているだけかもしれない。
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現実の表象が「お話としてなんとなく納得できること」は、それが現実を正しく記述していることをまったく保証しない。
3. ビデオゲームの物語の特殊性
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よく言われること
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一本道と分岐
よく言われること
ビデオゲームの物語の特殊性についての言説
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ビデオゲームの物語と、それ以外の形式（映画、小説、etc.）の物語の違いとして、しばしば以下のように言われる。
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「ビデオゲームは自分だけの物語を作れる。」
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「ビデオゲームは物語の"体験"である。」
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「ふつう物語は"リニア"なものだとされるが、ビデオゲームの物語は"ノンリニア"である。」
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Etc.
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この手の言説が何が言いたいのかはけっこうあいまい。理論的枠組みによって明確化したほうがよい。
一本道と分岐①
一本道のストーリーと分岐するストーリー
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ビデオゲームの物語の特殊性として挙げられる典型は、いわゆるマルチエンディングに代表される分岐するストーリー（branching story）。
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これは「一本道」と対比されるが、実際には一本道のストーリーにもビデオゲームの特殊性は少なからずある。
一本道と分岐②
一本道のストーリー
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以下の授業資料をベースにして話します。
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2020年度 東京都立大学 表象文化論特殊講義 授業資料
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スライドだけ見ている人向けの注意点
- 上記資料内にいくつかある図の中の物語言説の具体例は、便宜上テキスト（キャラクターの発言テキスト）だけになっていますが、ふつうはグラフィックや音声も物語言説に含まれます。その点は映画と大差ないです。
一本道と分岐③
分岐するストーリー
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以下の授業資料をベースにして話します。
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2020年度 東京都立大学 表象文化論特殊講義 授業資料
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👉 ビデオゲームの物語論 第9回
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全員向け
- 上記資料内に「環境ストーリーテリング」についての言及がいくつかあるが、これは次回扱う予定。
- 分岐ストーリーは物語内容が複数に分かれる以上のことではないので、物語論的な複雑さはとくにない。
- 上記資料p. 10の「物語内容を変えられるということの意義」については、他に思いつくところがあればリアクションペーパーに書いてください。
おまけ
次回の予定
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7/18は祝日のため授業はありません。
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7/25は通常授業をします。この日が最終回です。
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物語の話の続きをする予定ですが、別の話にする可能性もあります。
スライド最後
勉強用の文献
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物語論について
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ジェラルド・プリンス『物語論辞典』遠藤訳、松柏社
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訳があまりよくないので英語の原著をすすめる（安いし薄い）。
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術語も英語で理解しておいたほうがよい（術語の日本語訳はだいたい無駄にごついので）。
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ジェラール・ジュネット『物語のディスクール』花輪・和泉訳、水声社
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物語論の古典。全員読むべきもの。
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ジェラール・ジュネット『物語の詩学』和泉・神郡訳、水声社
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『物語のディスクール』のまとめ＋補論。
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具体例が続くのが苦手な場合は、こっちのほうが読みやすいかもしれない。
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シーモア・チャットマン『ストーリーとディスコース』玉井訳、水声社
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これも古典。英語圏でジュネットその他の理論を受け継いで総合した人。
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ジュネットよりわかりやすい図式を提示している（単純化しすぎている面もあるが）。
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ビデオゲームの物語について
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松永伸司「ナラティブを分解する：ビデオゲームの物語論」発表資料
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👉 リンク
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注に勉強系の情報がたくさん書いてある。
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今回挙げている各授業資料内の文献も参照。
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メディア文化学／美学美術史学特殊講義 11
By Shinji Matsunaga
