#11
ジャンル論の落とし穴
定義・起源・同一性の問題
系共通科目(メディア文化学)講義A
月曜4限/第11回
松永伸司
2026.07.06
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期末テストの実施要領をScrapboxで共有しました。
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期末テストの回答期間は7月20日~8月3日になる予定です(テストはGoogleフォームで答える形式です。教室は使いません)。
今日の授業のポイント
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あるひとつのジャンルを取り上げて論じようとしたときに、誰もが陥りがちな3つの問題があることを理解した上で、それぞれの問題に対してどう対処すればよいかを考える。
今日の最重要ポイント:ジャンルとはつまるところアーサー・ダントーが言うアートワールドと等価である。
今日のメニュー
1. ジャンルとは何か(と問うべからず)
2. ジャンル論の3つの落とし穴
1. ジャンルとは何か(と問うべからず)
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ジャンルとは何か
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ジャンル論とは何か
ジャンルとは何か [1/5]
ジャンル・芸術形式・様式
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一般的に言えば、ジャンル(genre)は、文化的なアイテム群(作品群)を分類するためのカテゴリーの一種。たいていは、そのアイテム自体が持つ特徴(内在的性質)に注目した分類がなされる。
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一般にジャンルは、同じく文化的なアイテム群を分類する概念である芸術形式(art form)や様式(style)とは区別されることが多いが、それほど明確な区別ではない。
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ここで、「ジャンルの定義は?」と初手で問うのは、典型的なナンセンスな問いである。定義論の注意点については、前回の授業スライドを参照。
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毎度のように、例示で済ます。
ジャンルとは何か [2/5]
芸術形式と様式の例
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芸術形式の例
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文学、音楽、絵画、彫刻、建築、ダンス、演劇、映画、マンガ、ビデオゲーム、etc.
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古めの英語だと、芸術形式のことを"the arts"と呼ぶこともある。同じく、いわゆるフランスにおける「10の芸術(les dix arts)」(バンドデシネが「第9芸術」と呼ばれるあれ)も、芸術形式のことである。
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- 様式の例
- ゴシック、ルネサンス、バロック、新古典主義、ロマン主義、天平様式、貞観様式、定朝様、etc.
- 第8回授業のスライドも参照。
ジャンルとは何か [3/5]
ジャンルの例(無限にある)
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フィクション作品(小説・映画・アニメ・マンガなど)のジャンル
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SF、歴史物、ファンタジー、スチームパンク、異世界転生物、etc.
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ホラー、サスペンス、ミステリー、スリラー、コメディー、恋愛物、etc.
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ポピュラー音楽のジャンル
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ジャズ、ブルース、フォーク、カントリー、ロックンロール、パンク、ヘヴィメタル、R&B、ファンク、ヒップホップ、テクノ、ハウス、レゲエ、ボサノバ、etc.
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ビデオゲームのジャンル
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アクション、ストラテジー、RPG、アドベンチャー、シューティング、パズル、音楽ゲーム、etc.
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etc.
ジャンルとは何か [4/5]
ジャンルの階層・派生・交差
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階層:ひとつのジャンルが下位カテゴリー(サブジャンル)を持つこともよくあるし、下位カテゴリーがさらに下位のカテゴリー(孫に相当)を持つことも少なくない。
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例:アドベンチャーゲーム ⊃ グラフィックアドベンチャー ⊃ ポイント&クリックアドベンチャー
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派生:あるジャンルから別の新しいジャンルが派生することもよくある(派生したジャンルが派生元のサブジャンルになる場合もあればそうでない場合もある)。この派生関係は、系統図で表現されることが多い。
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例:アドベンチャーゲーム → ビジュアルノベル
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例:音楽ジャンルの系統図:https://musicmap.info/
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交差:複数のジャンルの掛け合わせによって新しいジャンルが作られることもある。
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例:RPG × アクションゲーム → アクションRPG
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ジャンルとは何か [5/5]
注意点:ジャンルの構築性・相対性について
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当たり前の話だが、ジャンルは、一定の文化的コミュニティの中で広く共有されるカテゴリー以上のものではない。つまり、人が作り上げ、何らかの利便性のゆえに流通しているひとつの〈ものの分け方〉でしかない(そもそも大多数の分類がそういうものである)。
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ジャンルは、時代や地域によって変わることもよくある。たとえば、ビデオゲームジャンルの分け方は、日本と英語圏とで多少異なる。
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というわけで、あるジャンルについて「その本質とは」と問うたり、ある作品について「それが属する真のジャンルとは」と問うたりするのは無意味なので注意すること※。
※もちろん、あるアイテムについての正しいジャンル帰属と正しくないジャンル帰属の区別はありえるが、それは「本質」とか「実在」の問題ではない。この点が気になる人は、参考文献中のウォルトン「芸術のカテゴリー」の後半、および銭『芸術をカテゴライズすること』5~7章を読むことをおすすめする。
ジャンル論とは何か [1/3]
ジャンル論の特徴づけ
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ジャンル論は、個々のジャンルを取り上げて何かを論じるタイプの研究のこと。
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作品論や作家論と対比される。
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様式論は、作品群をまとめて扱うという点では、ジャンル論に近いタイプの研究かもしれない。
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ジャンル論は、歴史研究の場合もあれば、理論的研究の場合もある。
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ジャンル論は、あるひとつのジャンルを取り上げて論じるのが基本だが、場合によっては隣接ジャンルとの比較などもする。とくに理論的研究の場合、他のジャンルとの比較をすることによって、当のジャンルの「ならでは」がはっきりするという面が少なからずある。
ジャンル論とは何か [2/3]
ジャンル論の3つの落とし穴
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ジャンル論をする際に陥りがちな問題が少なくとも3つある。
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個別ジャンルの定義の問題
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このジャンルの必要十分条件は何か。
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このジャンルのカバー範囲はどこからどこまでか。
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個別ジャンルの起源の問題
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このジャンルはいつできたのか。
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どのアイテムがそのジャンルの「元祖」なのか。
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個別ジャンルの同一性の問題
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「ひとつの同じジャンル」とはどういうことか。
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何がどうなると「別のジャンル」になるのか。
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ジャンル論とは何か [3/3]
続き
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これらの問題は密接に互いに関係するし、実際ごっちゃにして論じられることも多いと思われるが、ひとまず分けて考えたほうがよい。
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以下、それぞれの問題のポイントと対処法(落とし穴にはまらないためにどう考えればよいか)を詳しく見る。
今日の授業の最重要命題
- ダントーのアートワールド論は、ジャンル論の3つの問題を考える上で非常に有用である。
Slido確認タイム
2. ジャンル論の3つの落とし穴
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定義の問題
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起源の問題
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同一性の問題
定義の問題 [1/8]
定義の問題とは
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個別ジャンルの定義の問題は、典型的には次のような問いのかたちをとる。この種の問いは、民間理論の文脈でも頻繁に問題にされる。
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このジャンルの必要十分条件は何か。
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このジャンルのカバー範囲はどこからどこまでか。
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具体的なジャンルを例にして考えてみよう。
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(ビデオゲームジャンルとしての)RPGの必要十分条件は何か。言い換えれば、すべてのRPGを包摂し、かつRPGでないものを排除できる条件は何か。
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RPGのカバー範囲はどこからどこまでか。たとえば『ゼルダの伝説』シリーズはRPGに入るのか?
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定義の問題 [2/8]
個別ジャンルを定義する試みの例①:RPGの定義論
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CRPG AddictによるRPGの定義(2022年3月以前バージョン)
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1. The game must feature character development.
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2. Combat success must be based in part on intrinsic attributes and not just player reflexes or weapon statistics.
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3. The player must have a flexible inventory of equipment he can wield, equip, unequip, sell, drop, and trade.
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ようするに、①キャラクター成長要素があり、②戦闘に勝つためにプレイヤーのスキルや武器の性能だけではなくキャラクターの能力値が不可欠であり、③着脱可能な装備のインベントリ(アイテム欄)がある、という条件。
※ちなみに、この定義で想定しているのはPCのRPGだけであって、コンソールのRPG(家庭用ビデオゲーム機をプラットフォームとするRPG)は念頭にないらしい。
定義の問題 [3/8]
個別ジャンルを定義する試みの例②:ローグライクの定義論
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ベルリン解釈(2008年国際ローグライク開発会議)によるローグライクに必要な要素
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ステージの自動生成
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パーマデス(一回死ぬと最初からやり直し)
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ターンベース(リアルタイムで時間が進まない)
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グリッドベース(ステージがマス目で構成されている)
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モードの切り替えなし(〈戦闘モード/移動モード〉といったモードの切り替えがない)
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複雑さ(ひとつの課題に対していろいろな解法がありえる)
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リソース管理(食料や回復アイテムなどの限られた資源をやりくりしないといけない)
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ハック&スラッシュ(敵が大量に出てきてそれを倒していく)
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探索・発見(ステージやアイテムは毎回のプレイごとにいちから探る・確かめる必要がある)
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※ちなみに、以上は“high value factors”とされ、あるゲームがローグライクであるためにとりわけ重視される諸特徴らしい。これらとは別に“low value factors”も挙げられている。
定義の問題 [4/8]
定義の問題の落とし穴①
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定義の種類(前回の授業スライドを参照)ごとの落とし穴
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仮にその定義が記述的定義だとすると、当のジャンルの範囲についての既存の認識がある程度固まっている必要があるが、範例(そのジャンルを代表する作品)以外はかなりあやふやであることが多い。
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仮にその定義が規約的定義だとすると、当の文脈内でのみ有効な新しいカテゴリーを作るわけなので、わざわざ既存のジャンル名を使う必要がない(既存のカテゴリーと同じネーミングにするのはややこしいだけである)。
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定義の問題 [5/8]
定義の問題の落とし穴②
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加えて、前回の授業で示したように、ジャンル名(字面)がそのジャンルの特徴を的確に反映していると考えてしまうという定義論の誤謬がよくある。
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どうしようもない例:
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「RPGはロールをプレイするゲームだから~」
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「ローグライクはローグに似ているゲームだから~」
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「アドベンチャーゲームは冒険をするゲームで~」
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この手の誤謬はめちゃくちゃ多い。
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定義の問題 [6/8]
定義の問題の落とし穴にはまらないために
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個別ジャンルの定義が気になってしまったときの考え方:
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まず、そもそも本当に定義(線引き)が必要なのかどうか、特徴づけと範例の例示で済む話ではないのかどうかを検討したほうがよい。
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何らかの規約的定義をしたいならネーミングを変えたほうがよい。
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もし記述的定義が必要なら、ジャンルはたんに人々が便利に使っている〈ものの分け方〉でしかないこと、その〈分け方〉はコミュニティごと(時代ごと、地域ごと、etc.)に変わりうること、および、その範囲は普通はたいして確定していないことを十分理解したうえで、確定している部分(範例群と明らかに除外すべき事例群)を念頭に置きながら、その範囲にできるだけ過不足なく一致するように必要十分条件をデザインする。
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ジャンルの名称にもとづいて何かを考えようとするのは最悪である。
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定義の問題 [7/8]
具体的なケースに当てはめてみる
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RPGの定義が気になってしまったときの考え方:
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まず、そもそも本当にRPGの定義(線引き)が必要なのかどうか、RPGの特徴づけと範例の例示で済む話ではないのかどうかを検討する。
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規約的定義をしたいなら「RPG」ではなく別のラベルを使う。
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もし何らかの理由でRPGの記述的定義が必要なら、RPGの範囲はコミュニティごとに変わりうることやたいして確定していないことを十分理解したうえで、確定している部分(RPGの範例群と明らかな非RPGの事例群)を念頭に置きながら、その範囲にできるだけ過不足なく一致するように必要十分条件をデザインする。
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RPGの範例:Ultimaシリーズ、「ドラゴンクエスト」シリーズ、「ファイナルファンタジー」シリーズ、「ポケモン」シリーズ、「ペルソナ」シリーズ、Elder Scrollsシリーズ、etc.
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「RPG(role-playing games/役割演技ゲーム)」という名称から何かを言おうとするのは最悪!
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記述的定義の前提
既存の認識における
〈RPG〉の範例
のカバー範囲
既存の認識における
〈明らかにRPGでないもの〉
のカバー範囲
既存の認識における
〈RPGか否かが微妙なもの〉
のカバー範囲
〈条件C1, C2 . . .〉
を満たすもの
〈条件C1, C2 . . .〉
を満たさないもの
必要条件と十分条件によるカバー範囲が既存のRPGの範例のカバー範囲とできるだけ一致するように条件を工夫する
うまくいったRPGの記述的定義
〈条件C1, C2 . . .〉
を満たすもの
〈条件C1, C2 . . .〉
を満たさないもの
既存のカバー範囲と定義によるカバー範囲が明らかにずれいている場合、記述的定義としては失敗
うまくいっていないRPGの記述的定義
既存の認識における
〈RPG〉の範例
のカバー範囲
定義の問題 [8/8]
余談:記述的定義の必要十分条件のデザインの作業プロセス
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記述的定義の作り方に決まったやり方はないと思うが、標準的には、
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①ある語の特定の用法の事例を観察し、
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②その観察にもとづいてその語が指すカテゴリーの事例のカバー範囲を大まかに想定し、
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③試しに条件をデザインしてみて、
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④その条件のカバー範囲が(自分の想定内にある)事例のカバー範囲に過不足なく一致しているか否かをチェックし、
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⑤一致していなければ③に戻って条件を微修正する(一致していれば終わり)
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というiterative(試行反復的)なプロセスになる。
説明を飛ばします
Slido確認タイム
起源の問題 [1/7]
起源の問題とは
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個別ジャンルの起源の問題は、典型的には次のような問いのかたちをとる。
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このジャンルはいつできたのか。
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どのアイテムがそのジャンルの「元祖」なのか。
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具体的な例で考えてみると:
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FPS(ファーストパーソンシューター)というビデオゲームジャンルはいつできたのか。
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「最初のFPS」「FPSの元祖」はどの作品なのか。
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起源の問題 [2/7]
ジャンルの起源を特定する①:RPGを例に
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「最初の~」が比較的はっきりしているジャンルはある。たとえば、RPGというジャンルの起源がDungeons & Dragons(D&D、1974年)であることは、ほとんど異論の余地がない。
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D&Dは卓上でプレイするアナログゲームだが、D&Dにおけるゲームマスター(ゲームプレイの進行役)の役割をコンピュータに代替させるという発想のもとで作られ、研究機関の教育用ネットワークを通じて遊ばれた非商用のプログラムが、コンピュータRPG(いわゆるRPG)の起源である。
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その後Ultimaなどの商用のコンピュータRPGがアメリカでヒットし、それらが日本でもプレイされるようになる中で、『ドラゴンクエスト』(1986年)や『ファイナルファンタジー』(1987年)といった日本産のRPGが登場してヒットした(めちゃくちゃ雑なビデオゲーム史)。
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参考:2022年の授業スライド
起源の問題 [3/7]
続き
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D&Dが明らかに「RPGの元祖」であると言えるのは、複数の理由がある。
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(a) そのジャンルの範例群に共通する基本的な特徴を持つもののうち、最古である。
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(b) そのジャンルの範例群との歴史的な連続性が明確にたどれる。
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(c) そのジャンルの名称の起源である。
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D&Dはたまたまこれらをすべて満たすが、(a)(b)(c)のうちのひとつだけを満たすだけであれば、おそらく明白な「元祖」とは言いづらい。
起源の問題 [4/7]
ジャンルの起源を特定する②:FPSを例に
いま挙げた3つの観点をもとに、今度はFPS(ファーストパーソンシューター)の「元祖」を考えてみよう。RPGとは違って、FPSの場合、次の(a)(b)(c)をすべて満たす作品はおそらくない。
(a) FPSの範例群に共通する基本的な特徴を持つ最古のものである。
(b) FPSに属する範例群との歴史的な連続性が明確にたどれる。
(c) 「FPS」という名称の起源である。
(a)はFPSをどのように特徴づけるかによるが、仮に〈三次元空間での移動が可能な一人称視点の射撃ゲーム〉をFPSの範例群に共通する特徴として考えれば、たとえばタンクシューターのBattlezone(1980年)▶️がその最初期の例として挙げられる(最古ではないかもしれないが)。一方、Battlezoneが、1990年代から現代に至るFPSの範例群との歴史的なつながりがある作品かどうかははっきりしないし、それは「FPS」というジャンル名の起源でもない。
起源の問題 [5/7]
続き
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(b)に相当する作品(FPSの範例群との歴史的連続性がある作品)は、少なくともDoom(1993年)およびその前作と言ってよいWolfenstein 3D(1992年)▶️までは明確にさかのぼれる。さらに、それらの作品のベースとなったid Softwareの作品(Hovertank 3D、Catacomb 3-D)も、歴史的なつながりがあると言っていいかもしれない。
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(c)に相当する作品(「FPS」というジャンル名の起源)ははっきりしないが、Google Ngram Viewerで見たところ、1990年代半ば以降に“first-person shooter(s)”の用例が急速に増えているようなので、90年代前半~中盤の代表例であるDoomやQuakeがネーミングの源泉である可能性がある。
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とはいえ、いずれにせよそれらは、(a)に相当する作品(FPSの範例群に共通の基本的な特徴を持つ最古のもの)ではない。結果として、「最初のFPSとは何か」という問いにはそこまで明確に答えられない。
起源の問題 [6/7]
起源の問題の厄介なところ
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あるジャンルの「元祖」を特定するには、(a) 当のジャンルの基本的な特徴を持つ最古のもの、(b) 当のジャンルの範例との歴史的な連続性がたどれる最古のもの、(c) 当のジャンル名の起源となったもの、といった複数の観点がありえるが、同じひとつのアイテムがそれらを満たすとは限らない。
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また、ジャンルの特徴づけ次第で、(a)に相当するアイテムはいくらでも変わりうる。
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加えて、あるジャンルの名前は、別の文脈において別の意味で(場合によっては別のジャンルの名前としてすら!)使われる場合があるので、(c)を特定しようとする際には、当のジャンルに関係のないアイテムを取り上げていないか十分に注意する必要がある(この注意点については、次の同一性の問題の中の「同じ名前問題」の箇所も参照)。
起源の問題 [7/7]
起源の問題の落とし穴にはまらないために
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定義の問題と同じく、そもそも「最初の○○」を言う必要があるかどうかをまず検討したほうがよい。
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「最初の○○」や「元祖○○」はキャッチーなので言いたくなる/調べたくなる気持ちはわかるが、事柄の性質上、それを一意に特定するのはかなり難しい(RPGのように、場合によっては元祖を明確に特定できるケースもあるが、例外である)。
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また、起源を考えるよりも先に、範例のピックアップを考える必要がある。(a)にせよ(b)にせよ、結局のところ、当のジャンルの範例群(明らかにそのジャンルに属すると言えるアイテム群)をもとにして、そこから遡及的に振り返ることではじめて特定される。ようするに、まずそのジャンルの元祖が特定され、その前提のもとで後続するアイテム群が特定される、という順番ではない。むしろ、先にジャンルの範例群があり、その前提のもとで遡及的に元祖はこれだとかこれでないとかが言えようになるのである。
Slido確認タイム
同一性の問題 [1/10]
同一性の問題とは
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個別ジャンルの同一性の問題は、次のような問題:
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「ひとつの同じジャンル」とはどういうことか。
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あるジャンルを同定するにあたって、ジャンルの名前はどこまで手がかりになるのか。
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何がどうなると「別のジャンル」になるのか。
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同一性の問題 [2/10]
同じ名前問題①
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かつてある特定のジャンルに属すると称されていたアイテム(自称であれ他称であれ)が、いま見るとまるで別のジャンルのアイテムにしか思えないというケースがたまにある。
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たとえば、『頭脳戦艦ガル』(1985年)▶️は、発売当時、公式に「スクロール・ロールプレイングゲーム」と称されていたようだが、どう見てもRPGではない(どう見ても典型的な縦スクロールシューティングである)。
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この作品はRPGだ(あるいは少なくともRPGだった)と言えるのか? 当時は、RPGというジャンルの範囲がいまよりも広かったということなのか?
同一性の問題 [3/10]
同じ名前問題②
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1970・80年代の日本のポピュラー音楽の一部は「シティポップ」と呼ばれる。
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音楽的にはAORの影響が強く、「メロウ」で「都会的」であるとされる。
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山下達郎、竹内まりや、杉山清貴&オメガトライブ、角松敏生などが典型。
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2010年代のVaporwave/Future Funkムーブメントとの関連で、海外のミュージシャン/リスナーにさかんにdigられ、インターネット上を中心にしてリバイバルしている。
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同一性の問題 [4/10]
続き
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一方、現代(2010年代以降)の日本のポピュラー音楽の一部も、しばしば「シティポップ」(場合によっては「ネオ・シティポップ」)と呼ばれる。
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こちらもブラックミュージックの影響が濃い傾向にあり、やはり「都会的」とされるが、サウンドの傾向は前述の70・80年代の「シティポップ」とはかなり異なる。
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代表的なミュージシャンとして挙げられるのは、Awesome City Club、cero、Lucky Kilimanjaro、LUCKY TAPES、Nulbarich、Suchmos、Yogee New Wavesなど。
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同一性の問題 [5/10]
続き
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時代を超えて同じ「シティポップ」という名前で呼ばれるこれらの作品群は、同じひとつのジャンルに属するのか? それとも別のジャンルに属するのか?
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ちなみに、両者を大まかに見て同じ系譜に属するものとして位置づけている考察もある。
同一性の問題 [6/10]
別の名前問題①
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おおむね同じようなアイテム群が、コミュニティごとに別々の名前で名指されることはよくある。
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これらは同じひとつのジャンルが異なる名前で呼ばれているだけなのか? あるいはカバー範囲がある程度共通しているだけの別のジャンルなのか?
同一性の問題 [7/10]
同一性の問題 [8/10]
落とし穴にはまらないために
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まず初歩的な注意点として、定義の場合と同様に、ジャンルの名前にこだわらないことが重要である。
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たとえば、等しく「シティポップ」と呼ばれることは、それらが同じジャンルであることを意味しない。
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同様に、別々の名前で呼ばれているからと言って、必ずしも別ジャンルであるとはかぎらない。
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とはいえ、名称が手がかりにならないとすれば、ジャンルの同一性(あるいは非同一性)はどのような観点から白黒をつければよいのか。
同一性の問題 [9/10]
ジャンルの哲学
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銭清弘(『芸術をカテゴライズすることについて』)によれば、ジャンルとはそもそも何であるかについて、大きく分けて3つの考え方がある。
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分類説:ジャンルとは特徴にもとづいて作品を分類するための諸概念である。
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伝統説:ジャンルとは作品群が互いに影響を与えながら制作されてきた伝統である。
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統制説:ジャンルとは鑑賞を統制するルールである(銭自身はこの立場)。
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この区別は、そのままジャンルの同一性をどう考えるかに使えるだろう。
同一性の問題 [10/10]
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同一性の問題の落とし穴にはまらないためには、これらの複数のジャンル観を選択肢として持っておいて、その都度の必要に応じて使い分ければよい(とくに伝統説と統制説を頭に入れておくと罠にはまることが減るはず)。
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1980年代の「シティポップ」と2010年代の「シティポップ」は、分類説の観点から言えば同じジャンルではなく、さらに伝統説、統制説の観点から言ってもまるで別物である。つまり、問答無用に別物である(多少の影響関係はあるだろうが、「同じ伝統に属する」と言えるほど強いつながりではない)。
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『頭脳戦艦ガル』もまた、どのジャンル観のもとでもRPGではない。
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チルウェイヴとシューゲイザーは、分類説の観点から言えばかなり近接したジャンルだと言えるかもしれないが、一方、伝統説や統制説の観点から言うと、同じジャンルとは言えない。
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勉強用の文献
ジャンルの哲学
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これまでは日本語で読める文献は皆無だったが、2025年に以下の研究書が出た。ジャンルとは何かについてきちんと勉強したければ、まずこれを読みましょう。
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銭清弘『芸術をカテゴライズすることについて』慶應義塾大学出版会、2025年
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銭さんのブログでもジャンルの哲学の論点がまとめられている。
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今回は紹介しなかったが、ジャンル論をする際にケンダル・ウォルトンの「芸術のカテゴリー」の議論は非常に参考になる(上記の銭さんの本でも紹介されている)。「標準的特徴/可変的特徴/反標準的特徴」のセットという考え方、および正しいカテゴリー帰属がどのように決まるのかについての議論は、とくに有用だろう。
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ケンダル・ウォルトン「芸術のカテゴリー」森功次訳、note、2015年、https://note.com/morinorihide/n/ned715fd23434
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スライドおわり
2026 系共通科目(メディア文化学)#11
By Shinji Matsunaga
2026 系共通科目(メディア文化学)#11
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